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●盤上の敵 シアター・ドラマシティ ダンスアクトシリーズvol.4

2004年8月15日 青山劇場

シアター・ドラマシティ ダンスアクトシリーズvol.4と銘打たれたコンテンポラリーダンス「盤上の敵」を見に行ってきました。
これは、自分自身の備忘録を兼ねたインプレッションです。

  • はじめに 「盤上の敵」というバレエっちゅーか、ダンスっちゅーか演劇のようなものを見に行きました。 オリジナルは北村薫という作家の推理小説なのですが、これをモチーフにして2人の演出家がそれぞれ演出を行って2種類のコンテンポラリーダンスに仕上げたというようなもの。 余計な先入観を持ちたくなかったので、原作を読まずに見たのですが、案の定何が何だかさっぱり分かりません(苦笑) 推理小説というのは、数多くの小説のスタイルの中でも文字による説明を重要視する文学です。 これを映像化するには、たとえば映画やテレビドラマのようなものであれば、文字を具体的な風景や情景に置き換えることが可能ですから、イメージに対する違和感のようなものはあるとしてもさほど難しいものではないと思います。しかし、言葉のほとんど無いコンテンポラリーダンスに仕上げるのは至難の業と言えるでしょう。 言葉で補う事は許されません。 複雑に絡み合った推理小説を言葉の無いダンスで表現することは可能なのか? その一点のみに着目して2種類のダンスを見てみました。

    原作では、主人公の夫と妻をチェスの白のキングとクイーンに見立て、凶悪な殺人犯と、妻を苛める旧友の女性を黒のキングとクイーンに置き換えることで、チェスの盤上の戦いとして物語を構成していくため、「盤上の敵」というタイトルがついています。 事件をチェスに見立てているというシチュエーションをバレエ的にどう活かすかが、この作品の演出のポイントになるような気がしました。

  • 上島雪夫演出版
    出演:
    • 白のキング:西島千博
    • 黒のキング:遠藤康行
    • 白のクイーン:藤井美穂
    • 黒のクイーン:平山素子
    • 白のダンサー:張縁睿/佐藤洋介
    • 黒のダンサー:森山開次/平野亮一

    上島雪夫と服部有吉という二人の演出家の演出方法は、はっきりとタイプが分かれて
    おり、上島はどちらかと言えばストーリーに忠実に演出を行っていていました。

    開幕すると、舞台左手に置かれた椅子の上で、西島が放心状態といった感じでうなだれています。いきなり西島の独白が音声で流れて来ました。
    「すべてを無かったことにしたかったんだ・・・」
    ガックリ。
    タダでさえ台詞が下手な西島王子に、セリフ言わせちゃダメでしょーが。

    そのあと、各ダンサーが出たり引っ込んだりしながらダンスを踊ります。
    これはチェスをイメージしていたと思われますが、2人ずつ加わっているダンサーの存在が良くわからなかったので、逆に散漫なイメージを受けてしまいました。
    特に、妙に存在感のある森山開次は、遠藤や西島を食ってしまっている感じ。

    白のクイーン藤井の踊りはなかなか優雅で良い印象を受けました。憎たらしいくらいの表情で嫌な女を演じる平山の演技も見事。特に平山は最後のカーテンコールで素の笑顔に戻ったときの印象が全く違い、さすがだなーと思わせるものがありました。
    藤井さんも平山さんもなかなか素晴らしいダンサーでしたが、二人とも絶望的に貧乳なのが、おっぱい星人ジャンボウとしてはカナーリ不満。

    冗談はさておき、多分割と忠実にストーリーを追っていると思われる演出が、妙に説明調で冗長的です。内面心理を表現しているんだろうと思う2人のダンサーたちが却って邪魔に感じてしまいました。
    特に森山は目立ちすぎ(森山本人が悪いわけじゃないんですがね)。遠藤君より主役っぽい。ついでに西島王子も悪役っぽい感じで、ミスキャストなのかなあ?とも思いました。白と黒のキングは逆にしたほうが良かったかも。

    途中、何度となく眠たくなり、正直いってこれは辛いなという感じが抜けません。
    ようやく、最後のほうでキング同士の戦いを踊りで表現したところがあり、それがちょっと新鮮な感じに見えて、何とか眠気も覚めたという感じでした。
    50分前後のステージが終わって、かなり脱力。女房が気を使ってくれましたが、正直いってあまり面白くないと感じてしまった前半でした。

  • 服部有吉演出版
    出演:
    • 白のキング:服部有吉
    • 黒のキング:ヨハン・ステグリ
    • 白のクイーン:エレン・ブシェー
    • 黒のクイーン:ゲイレン・ジョンストン

    本作の演出家であり、主演も兼ねるハットリ君は、あの国民栄誉賞を受賞した作曲家、服部良一氏の孫だそうです。そういうサラブレッド的要素を抜きにしても、なかなかやるなあ、と感じる演出と踊りでした。
    服部演出は、ストーリーにはこだわらず、白と黒の対比をモチーフにして一本の芯を作り、そこから自分なりの解釈を広げていったという趣きの作品に仕上がっていました。
    この手のバレエ舞踊には基本的に言葉が無いので、言葉で構成されている推理小説の表現は非常に難しいと思います。だから、結果として、ストーリーを追いかけるようなものよりも、あくまでも小説をモチーフにして、その主題にのみ着目して、それを具象化するようなタイプの演出の方が見ていて面白く感じるということが分かりました。

    序盤、クマのぬいぐるみと戯れる白のクイーン、ブシェー嬢の表情とか、しぐさがとても可愛らしい。もう、これだけで萌え萌え。キャスト勝ちって感じ。
    ハットリ君の踊りはなかなか凄かったらしいのですが、素人の私には、どうもそういうところには注目出来ません。むしろ、大柄な黒のクイーンのおねえさんと合わせるのは大変だなあ、とか、おしりペンペンする演出に、それは無いだろうと苦笑したりとか、そんな変なところにばかり目が行ってしまいます。
    あと、席が前から6列目くらいだったのですが、地面をごろごろする演技や、舞台前方に双葉が植えられていたのですが、それが見え難かったり、あとでネットで検索したら舞台上にはチェスの盤面がライティングされていたなど、よく分からない部分が多すぎました。
    これは青山劇場という場所を選んだことが失敗だったのかもしれませんが、公演数も多くないんだし、クラシックでもないんだから劇場に合わせた演出をもっと考えるべきだなと思いました。
    その点では、ピョンピョン飛び跳ねる演技の多かった上島バージョンのほうが上手く出来ていたように感じます。

    それと、これは不可抗力ですが、私の2列くらい前に座った男が、髪の毛を「はなわ」風におったてていて、それが邪魔で仕方ありませんでした。観劇するのにああいう髪型はイケマセン。モヒカンお断りの札を出すべきでしょう。

  • フィナーレ
    出演者全員が舞台上に出てきて、全員で群舞を踊るのですが、こういうダンスになると上手い下手が素人にもハッキリ分かってしまいます。
    バレエって怖いなあと感じさせる部分でもあります。

    こういう、ストーリーに関係ないフィナーレってのも有りなんでしょうけど、わたし的には必要性を感じませんでした。特にハカセ太郎的ノリで「お待たせしましたー」風の登場ながらイマイチ踊りがまとまっていない西島君には幻滅。
    最後のカーテンコールでは皆息が上がってしまっていました。
    たぶん、このフィナーレの演出はハットリ君なんでしょうが、自分が出来ることはみんなも出来ると思ってはいけないなあ。
    そこらへんをもうちょっと考えてあげたら、まとまった群舞になったような気もします。

  • その他雑感
    宮川彬良という顔のでかいピアニスト(最後にエレン・ブシェー嬢の隣に立ったら顔がエレンちゃんの3倍くらいあった)の作曲によるオリジナル作品なのですが、ピアノとバイオリン、チェロ、パーカッションという構成ながら結構ポップで、フュージョン風のアレンジがあり、わたし的には結構気に入った音でした。ビル・ブラッフォード風の手数の多いドラムを入れてエディ・ジョブソンあたりがバイオリンを弾いたら面白そうな感じ。(それじゃUKだ。)
    主題が微妙に映画版「ロミオとジュリエット」っぽい感じで(多分かなり意識していると思われる)、それがまた耳馴染みが良くて、バレエのバックミュージックとしては良いのではなかったかと思いました。
    ただ、肝心なところで幾つか演奏ミスがあったのが悔やまれます。

    思っていた以上に面白かった公演でしたが、最後に私はとんでもない勘違いをしてしたのでした。
    原作者の「北村薫」という推理作家は、「マークスの山」を書いた人だと思っていたのでした!(そっちは高村薫だね)