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●ALWAYS 三丁目の夕日

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2006年:バップ
監督:山崎貴
原作:西岸良平(ビッグコミックオリジナル)
出演:吉岡秀隆、堤真一、小雪、薬師丸ひろ子、堀北真希他

【昭和は遠くなりにけり】

昭和33年、東京の下町を題材にしたマンガ「三丁目の夕日」を映画化した作品。
原作は一話完結読みきりなので、様々なエピソードを交えて脚本が製作されている。

マンガとの違いは、さほど気にならない。
原作では、鈴木オートに勤める六さんは男だし(映画では堀北真希演じる六ちゃん)、茶川はもうちょっと年配の役どころである。
マンガ原作の映画化だと、そういう部分が気になってしまう事が多いが、このマンガは一話完結型なので、主人公に対する思い入れのようなものがそれほど多くなく、そういう意味では映画とマンガとは別物として楽しむ事が出来た。

特に、堀北真希の役どころはなかなか良い感じで、原作どおりにやるより良かったと思う。薬師丸ひろ子との息もぴったりであった。
惜しいのは、彼女があまりにも現代っ子すぎている点だ。これはどうしようもない事なんだろうけど、せめておかっぱ頭にしておけば、もうちょっと雰囲気が出ていたのではないだろうか。
吉岡秀隆の役どころについては、最初のうちはどうにもイメージが合わなくて、もうちょっと声のテンション下げてもいいんじゃないかなどと思ったものだが、ストーリーが進むにつれて全く気にならなくなっていた。
堤真一、三浦友和、小雪をはじめ、もたいまさこ、ピエール瀧らの端役も含めて、出演者全てが素晴らしかったと言っても過言ではない。
特に淳之介役の須賀健太、一平役の小清水一揮の両子役の出来が抜群に良い。
子供が嫌味なく演じられているのは、現代っ子でもこの時代の良さを感じ取れるからだろうか。目の輝きが演技ではないかのように素晴らしい。

お涙頂戴的な演出過多の部分はどうにも頂けないけれども、それを補完して余りある出演者たちの演技に、思わずこっちも泣いてしまう。泣かされることに抵抗を示す事もあるかもしれないが、ここは正直に泣いてしまったほうが楽しめるというものだろう。

設定されている年代は、東京タワーが建設された年だから、昭和33年という事になる。
私はまだ生まれていない。私が、この映画の一平くらいの年齢に達するのはこれから10年後の昭和43年くらいである。
だから、私の世代にとっても、少し古い話になる。
扇風機の前で「あ゛~」と声を震わせてみたり、駄菓子屋の「ソースせんべい」や「引き物」に夢中になっていたのは変わらないが、氷の冷蔵庫や力道山のプロレスは知らない。
だが、この10年の差は、その後の10年の差とは大きく違っているような気がする。
昭和40年代半ば頃から、高度成長の波に合わせて、人々の暮らしのスタイルは急速に変化していった。
昭和40年代の子供が昭和30年代に共感できても、昭和50年代の子供が昭和40年代や30年代には共感できないかもしれない。
そうして昭和は遠くなっていくのだ。

この時代、国民はまだまだ貧しかった。
セーターには継ぎ当てをして着ていたものだし、地方の子供たちは口減らしのために出稼ぎで集団就職する。
テレビも電気冷蔵庫も無かった。車など持っている人も少なかった。そんな時代を良く描けていると思った反面、気になる点が無かったわけでもない。
全体を通じてセピアトーン一色なのであるが、この時代、既にここまでボロだったのだろうか。
妙なリアリズムは返ってイメージをスポイルするので、これはこのままでも構わないとは思うが、それにしてもチョッと古めかし過ぎたような期がする。


2代目ミゼットは昭和34年デビューだから、本当はこの時代には合わない。初代のバーハンドルタイプでないとおかしいのだが、これは敢えて2代目を採用したようだ。映画的には初代よりマッチしている部分もあるので、それはそれで問題ない。
だけど、こんなに小さかったかなあ?実際に、現存している車を借りての撮影だったらしく、レプリカでも何でもないようだが、昔の軽自動車は小さかったのだ。それだけ現代人が大きくなったという事かもしれない。

片側2車線に複線の路面軌道がある広い道路で、かつ建設中の東京タワーが大きく見える風景の場所というのは、下町だというのなら浅草から上野界隈という事になる。
都電に乗って高円寺まで行くというエピソードがあり、高円寺は遠いらしいので、設定されている場所はほぼ上野界隈で間違いないと思うのだが、上野に実際にこんな風に見える場所があったかどうかは疑問である。しかし、三丁目がどこなのかを調査するのは野暮というものかもしれないし、雰囲気はまあまあ良く出来ていた。

だが、ここまで気を遣ったのなら、もう少し頑張って貰いたかったと思うのも事実である。
例えば、堤真一の指には結婚指輪が嵌っていた。この時代の男性で、しかも下町の自動車修理工場のオヤジが果たして結婚指輪なんかをしていただろうか。
出来れば、そういう部分にまで気を遣うべきだった。これは、そういう部分も見る映画なのだから。

シナリオ全体について言うと、エピソードを詰め込みすぎて散漫な印象になってしまったことは否めない。
そのため、アクマ先生と狸のエピソードなど、もうちょっと膨らませられるエピソードが軽く扱われてしまったのが残念である。
そのあたりのサイドストーリーは、むしろばっさりカットしても良かったのではないか。
ただし、三浦友和が好演しているだけに、ここを落とすのは偲びがたかったのかもしれない。
逆に、ほんのワンシーンなのだが、電気冷蔵庫が来て、無造作に捨てられた氷冷蔵庫を寂しそうに見る氷屋(ピエール瀧)などは、素晴らしく良かった。でも、ピエールさんよ、その腹はヤバイと思うぜ。

敢えてカットしてもいいシーンを探すとするなら、もたいまさこかなあ?
でも、六ちゃんに自転車を直して貰うシーンは、次のエピソードの伏線になっているので、ちょっと外せないし、もたいまさこの煙草屋のばあちゃんって、本当にハマっていたので、これもまた外せないキャラクターに育ってしまったんだろうなあ。

淳之介が母親に会いに行こうとするシーンあたりから、物語は急速に加速し、お涙頂戴の連続になっていく。こういう部分を嫌う人もいるかと思うが、冒頭でも書いたとおり、泣けるなら泣くべきなのだ。
ラストシーンで、帰郷する六ちゃんを車から見送った後、真っ赤に燃える夕日をバックに土手から完成した東京タワーのシルエットを親子3人で眺めるシーンにも多いに泣けてしまった。もう、日本でこういう夕日を親子で眺める事は出来なくなってしまったのだろうか。
高度成長とともに、日本が捨ててきてしまったものの代償は大きい。

このDVDは、ある宿屋に備え付けの大型液晶テレビの大画面で見たのだが、それが良かったのかもしれない。特にラストシーンは大画面で見て欲しい場面である。
そう思うと、映画館で見られなかったのが少し残念だったが、映画館でいい年したオヤジがボロボロ泣くのはちょっとみっともない。

DVDは通常版と豪華版(メイキングなどが入っているらしい)の2種類あるが、通常版で充分だろう。「観客泣き笑い音声付き」は不要だ。
最近の日本映画の中では珍しく何度でも見たいと思わせる作品である。