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●東スポ黄金伝説 / 赤神信

赤神 信 著
太陽出版発行(2006.6)
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【東スポを作った男たち】

関東近郊に住んでいる人ならば、東京スポーツを知らない人はいるまい。
大阪ならば大阪スポーツ、名古屋なら中京スポーツ、九州には九州スポーツという系列会社を持つ、あの夕刊紙(九スポは朝刊)である。
プロレスと競馬の記事中心のいい加減なスポーツ新聞。でもムチャクチャ面白い。それが東スポだ。私が東スポのファンになったのは一にも二にも、プロレス関連記事を第一面に持ってくることに尽きたのであるが、それ以外にも80年代半ば頃からわけの分からないトップ記事で読者を呆然とさせたものだった。

本編で語られる「マドンナ痔」を筆頭に、「フセイン・インキン大作戦」「聖子輪姦」「ダイアナ大胆乳」などの奇抜な見出しが有名であったが、特にスポーツ記事が無い日に提携紙「サン(注:イギリスの東スポ)」からゴシップ記事だの、「UFO発見」だのといったわけのワカラン記事を一面トップに持って来るところが最高に面白かった。

さて、この本は、そんな東京スポーツ新聞社の歴史を淡々と語った本である。
過去の東スポの見出しを面白おかしく解説しているムック本のようなものだと思っていたのだが、その期待は裏切られた。だから、そういうものを望む人が買っても全く面白くない本である。この本は、昭和40年代に入社したひとりの記者のエピソードを中心として、日本の高度成長期に東京スポーツが辿っていった歴史を綴ったものであり、フィクションと書いてあるがこれは紛れもなくノンフィクションであろう。内容はトンでもないが、ある意味、思った以上に固い本である。

冒頭で、平成3年から10年まで、ボーナスが一律24ヶ月だったという衝撃的な話から始まる。2.4ヶ月ではない、24ヶ月だ。2年分の給料がボーナスとして支給されるというのだ。そんな高給取りの新聞が「マドンナ痔」を一面トップにしちゃうのである。真面目に働いているのが馬鹿に思えてしまうような話である。

飲んだ暮れの編集長以下、無頼派ぞろいの記者たちの描写が大変面白く、読者をぐいぐい引っ張っていくが、新たな発見やオドロキがあるのも面白い。プロレス関連記事では、カール・ゴッチ対ルー・テーズの試合を企画したり、猪木対小林の試合なども東スポ主導で実現させたというのだから驚きである。後年、長島巨人軍の張り番記者は全て東スポ出身者で固められた、なんていう話もビックリだ。

印象的だったのは、浅丘ルリ子の映画製作発表会において、記者会見の真っ最中に三島由紀夫が自衛隊市谷駐屯地に潜入した、いわゆる「三島事件」が勃発し、記者たちは殆んど全員そちらの取材のために席を立ってしまったのに、東スポの島田記者だけは浅丘ルリ子の記者会見を続けたというくだり。
「他がやらないことをやる」というのは東京スポーツであり、東京12チャンネル(現テレビ東京)のお家芸でもある。
そういう反骨精神のようなものが随所に現れているのが読みどころだ。

編集長の方針で、仕事の出来ない古参社員がバッサバッサと首を切られていく。若い奴じゃないと新しい発想が出てこない。古くて仕事が出来ない奴はクビ。これを昭和40年代から実践していたというのだから、実に進歩的な会社だったわけだ。

事実は小説より奇なりとはよく言うが、この東スポ社員たちの逸話も出来すぎと言えるくらい面白い。東スポはスポーツ夕刊紙の梁山泊であった。
詳しく語ってしまうと読む楽しさがスポイルされてしまうので、ここでは詳しく説明しない。是非、購入して読んでみることをお勧めしたい。