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●魔人ドラキュラ(1931)

cover ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン
監督:トッド・ブラウニング
出演:ベラ・ルゴシ、ドワイト・フライ他
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【吸血鬼映画の原点】

「魔人ドラキュラ」は、1931年、「フランケンシュタイン」に先立って製作されたユニバーサル映画である。
吸血鬼映画といえば、1922年にノスフェラトゥという映画が製作されているが、ここに出てくる吸血鬼のイメージは我々の思い描くものとはかなり異なっているようである。
黒いタキシードに黒マント、頭をオールバックに撫で付けた吸血鬼ドラキュラのイメージは、まさに本作品のベラ・ルゴシ演じるドラキュラそのものであった。
吸血鬼映画として、世に言うドラキュラのイメージを定着させたのは本作品による所が大きい。

この映画はブラム・ストーカーの小説を元に舞台用の劇として脚色されたものを、映画用に直したものだそうである。
主役のドラキュラ伯爵には、当初、「ノートルダムのせむし男」(1923)、「オペラ座の怪人」(1925)等に主演していた怪奇映画俳優、ロン・チャニィを予定していたが、喉頭がんで急逝してしまったため、代役として当時ドラキュラの舞台に出演していたベラ・ルゴシを充てた。「フランケンシュタインのモンスター」も代役であった事を考えると、この奇妙な偶然は実に興味深い。ベラ・ルゴシはハンガリー出身であり、ハンガリーのトランシルバニアを舞台にしたドラキュラ伯爵役にはぴったりの人選であったと言えよう。

映画は「フランケンシュタイン」とは大いに異なり、かなり冗長的である。舞台劇の演出のまま映画化してしまったのが問題だったようだ。演技は何となく古めかしく妙に大袈裟で、そこが現代でも鑑賞眼に耐える「フランケンシュタイン」と比較してしまうと、一枚も二枚も落ちる原因となっている。
だが、その古めかしさが逆に、現代の目で見た時に永年の眠りから覚めたドラキュラ伯爵のイメージを盛り立て、妙にカビくさい画面でありながら、逆にリアリズムを掻き立ててくれるから面白いものだ。

特に素晴らしいのはドラキュラ城のセットである。クモの巣が張り巡らされ、ネズミが走り回る荒城が、重厚なBGMとモノクロ画面にあいまって、実に不気味なイメージを作っている。昨今のCGでは、とてもこんな重みのあるセットは作れまい。
ドラキュラのキャラクターには、色々な縛りがあって実に面白い。処女の生血を好み、コウモリやオオカミに変身するが、十字架とニンニクが大嫌い。太陽光線に弱く、心臓に銀の玉を撃ち込まれない限り死ぬ事はない。しかもベラ・ルゴシによるドラキュラ伯爵の威厳のある姿が素晴らしく良い。ところが、ルゴシは数あるドラキュラ映画の中で、たった2作品にしか出演していない。それなのにドラキュラ=ルゴシのイメージがあまりにも強いのは、それだけ本作品におけるドラキュラのイメージが鮮烈だったからではないだろうか。
冗長的な演出が、逆にルゴシ版ドラキュラの重厚なイメージを増幅して、人々の心に残ったのではないかと思われる。

以後、ユニバーサル映画に登場するドラキュラは、ロン・チャニィ・ジュニア、ジョン・キャラダインが演じることになるが、ルゴシの重厚なイメージには勝てない。まさに「魔人」である。後年、ハマープロダクションによってリメイクされたドラキュラ伯爵は怪優クリストファー・リーが演じた。彼のドラキュラもなかなかのもので、映画としての完成度はハマー版のほうが高いと思うが、舞台出身の鷹揚な演技と相まって、ベラ・ルゴシのドラキュラには独特の雰囲気がある。

レンフィールド役のドワイト・フライの狂った演技も見ものだ。
ドラキュラ伯爵よりもナンボかこのレンフィールドのほうが怖い。
この、ドワイト・フライという俳優の名前は以後のユニバーサル・ホラー映画に良く出てくるので、覚えておくと良いだろう。日本映画における宇野重吉のような役回りの俳優だ、と言っては誉めすぎだろうか。