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●ハンニバル




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2001年:20世紀FOX

監督:リドリー・スコット

出演:アンソニー・ホプキンス、ジュリアン・ムーア

【原作を滅茶苦茶にした最低の映画】

前作「羊たちの沈黙」から10年経って作られた続編。
作りたくもないのに作ったという感じだろうか。前作に比べてリドリー・スコットなんていう著名な監督を迎え、やる気満々なのにジョディ・フォスターに嫌がられてクラリス捜査官役がジュリアン・ムーアになったあたりからツキが失せた感じ。
あらかじめ書いておくが、リドリー・スコットとはかなり相性が悪いので、辛口の批評になっている点をお詫びしておこう。

まず、この映画を見る(或いは見た)人にお勧めしたいのは映画にあわせて原作本も読んで欲しいという事だ。映画と原作は別物であり、原作を読むことで余計なイメージを植え付けてしまうのは得策ではないのだが、この映画は是非原作のほうも読んで欲しいのである。
理由は順次述べていくことにするが、簡単に言ってしまうと、映画のほうは原作の中の肝心要の部分を改悪してしまっている。それによってこの映画は結果的に駄作になってしまった。
だから、この作品を評価するには、原作も読んでいただき、その差異の善し悪しについて感じ取って欲しいという事なのである。
原作自体も、決して良い本とは言えないのであるが、それにも増して改変したシナリオの酷さには眼を覆いたくなってしまう。それを理解していただくためにも、見てからでもいいから原作を読み、作者の意図すべき真意を汲み取って欲しいと思う。
私は原作の方を高く評価し、映画を駄作としたが、逆の意見の人もいるだろう。そういう意味も含めて、是非原作本を読んでみることをお奨めしたい。

話は「羊たちの沈黙」から10年後という設定になっている。映画の都合でそうなったという事だろうか。原作者のトマス・ハリスが全く書けなくなってしまい、続編書くのに5年かかったとかいう話もある。苦しんで産んだ作品には少なからず矛盾も生じるという事だろうか、随所でご都合主義が伺えるのが続編映画の難しいところであろう。

クラリス役がジュリアン・ムーアになっているので今ひとつ親近感が沸かない。ジョディ・フォスターが降りた理由は明確ではないが、「羊たち」の重要なキャラクターであった二人のうちの片方が別の役者になってしまっては興ざめである。
そのクラリスはベテラン捜査官となっていて、麻薬組織の女首謀者を逮捕しようとするが、逃亡を図った相手の銃撃に合い、応戦して子供を抱えた女首謀者を射殺してしまう。その一部始終をテレビ放映されてしまったためにマスコミから非難された彼女はFBI内部でも孤立してしまう。
この部分はクラリスの新たなトラウマとなって、それが小説のラストシーンに繋がっていくのだが、凡才リドリー・スコットにはそんな事は全く分からなかったらしい。このエピソードは単なるエピソードとしてのつなぎ話にしかなっていないのが物凄く残念だ。

そんな彼女を利用してレクターを私的に捕まえようと考えている人物が居た。レクターの元患者で、麻薬の影響から自らの顔の皮を剥ぎ取り、半身不随になってしまった大富豪のメイスンである。彼はレクターが病院に収容されていた時代の雑用係のバーニーからクラリスとレクターとの関係を聞き出し、司法省のクレンドラーを利用してクラリスにレクターを逮捕する仕事に従事させるように仕向けさせる。
私は、ちょっと考え違いを起こしていて、このメイスンは前作「羊たち」の犯人、バッファロービルのその後の姿かと思ってしまった。バッファロービルは死んでしまったので、そんな事はありえないのだが、顔の皮を剥ぐなんていう話がそのように感じさせたのかもしれない。顔の皮を剥いだくらいで半身不随になるとも思えないのだが、このメイスンという人物は妙にグロテスクすぎて面白くない。金持ちだが食えない奴という事なんだろうが、レクターの敵役にはもっと超人的な人物を据えないとバランスが取れないのではあるまいか。

その頃、イタリアに渡っていたレクターは教会の司書を殺害し、ダンテ研究のフェル博士と嘯いて、司書役として生活していた。イタリアに渡ってもクラリスの同行に注目していたレクター博士は、銃撃事件のニュースを聞き、クラリスに手紙を送る。
その手紙に染み込んだ香水の情報を元に、レクターの居所を突き当てようとするのだが、このあたりの物語展開はなかなか面白かった。この映画唯一の救いどころである。
一方、司書の失踪事件を捜査していたイタリア警察のバッツィ刑事(ジャンカルロ・ジャンニーニ)は、彼こそがハンニバル・レクター博士ではないかと疑いを持つようになる。
ところで、このバッツィ刑事ってのが結構な伊達男なのである。奥さん超美人だし、イタリアの警官ってのはみんなこんな感じのチョイ悪風味オヤジだらけなのかね?

そのバッツィが浪費家の妻を満足させるため、レクターの情報をメイスンに売ることになるのだが、レクターが本物である証が必要という事で彼の指紋を採取することを要求される。そのために彼が仕掛けた罠にハマリ、レクターはまんまとバッツィが送ったスリに指紋を取られてしまうのだが、タダでは済まさないのがレクターの凄いところである。スリの腹を割いて殺してしまうのだ。

クラリスがバッツィに連絡を取ろうとした時には既に時遅く、バッツィもレクターの餌食となる。バッツィの祖先の故事に倣って窓辺から釣り落とされてしまうのだが、その腹からは内蔵が飛び出している。
このシーンあたりからグロの連続になっていき、そういうのが嫌いな私は辟易としてしまった。上質なサイコホラーが見たいのであって、血ドバドバ、内蔵どくどくなんてのは二流のホラー映画に任せておけば良いのだ。或いは、想像を掻き立てるだけにして、実際の無残なシーンは見せないようにしておく仕掛けが必要だと思ってしまうのだが、如何なものだろう。

メイスンはやっとレクターを捕まえ、豚に食わせようとする。気の荒い豚を飼育して食人豚に飼育したというの設定なのだが、豚って肉食かよ?原作もそうなんだけど、豚っていうのがどうも実感なくて拍子抜け。
さらにメイスンはレクターの手ではなく助手のメイスンの手によって食人豚の中に叩き落されるのであるが、このあたりの結末のユルさも敵役としての力不足を感じざるを得ない。

レクターはメイスン邸からクラリスを助け出し、クラリスの家で銃弾の摘出手術を行う。
そして、気づいたクラリスが階下に下りていくと、司法省のクレンドラーが食事をしていた。このシーンもグロテスクなのだが、妙に阿呆らしくて不謹慎にも笑ってしまった。なんと、クレンドラーはレクターに囚われ、頭蓋骨を切り取られて脳みそが丸出しになってしまっているのだ。
そして、生きているクレンドラーの前頭葉を切り取り、それをクレンドラー自身に食わせるのである!!究極のカニバリズム!!脳の活き造りの自分喰い!!

実は、このあたりから原作と映画は完全に乖離していく。原作では、レクターとクラリスが揃って脳を食うのだ。
それはレクターとクラリスの同化を意味する。「羊たちの沈黙」によって自らのトラウマから解放されたクラリスが、今度はレクターのトラウマ「幼い頃に妹を殺され、その肉を目の前で食われ、自らも食わされた」を開放してやるのである。
クラリスは麻薬組織摘発失敗と謹慎による精神的ダメージと、その反動によるレクター逮捕への集中という、精神的な弱みを抱えている。だからこそ、窮地をレクターに救われ、嫌いな上司の脳をレクターと供に食うことで、そのトラウマから開放されるのだ。
それと同時に、レクターのトラウマである「妹」の存在を自らの中に作り出し、カニバリズムを共有することで、レクターの傷も癒すことになるのだ。
ここを改変し、単なる見た目のグロテスクさだけの「活き造り自分食い」だけを題材にしてしまうというのは、脚本家が原作を読みきれていないとしか思えない。

もっとも、クラリスがカニバリズムに堕ちていくという原作のストーリーはなかなかにショッキングであり、それを嫌う人も居るだろう。好意的に解釈するなら、今回の脚本は、そういう意図のもとに作られているのかもしれない。

さらに原作とは似ても似つかぬラストシーンに堕ちていく。

それでもクラリスはレクターを逮捕しようとし、彼がクラリスにキスした瞬間を狙って手錠をかける。こんなシーンは幻滅。原作ではクラリスはレクターと行動と供にし、友人に当てた手紙を最後に消息不明になるのだ。
だが、映画はクラリスとレクターの袂を分かってしまう。
レクターは手錠を嵌められた手を自ら切り落として脱出するのである。これじゃ、「羊たち」からのレクターとクラリスの関係が台無しである。こんな終わり方は認められない。

しかも最後の最後で、飛行機の中で日本人の子供に脳みそを食わせるシーンはグロテスクを通り越して不愉快でしかない。ショッキングな終わらせ方というのはレクター博士の映画には全く似合わない。前作のように、一見普通のシーンなんだけど、分かる人にだけ分かる怖さで終わるというのがこの映画の正しいやり方だ。
しかも、本人が美味そうに食うのならまだしも、それを子供(しかも白人じゃなくて東洋人っていうのが嫌らしいじゃないか!)に食わせるなんて、博士らしくもない終わり方だ。

この酷い結末の責任は二人の脚本家にあるのだろうが、やっぱりリドリー・スコットは嫌いだよ。

最後に、小説本のリンクと関連作品のリンクを貼っておく。

ハンニバル〈上〉 (新潮文庫)
トマス ハリス Thomas Harris 高見 浩
410216703X

ハンニバル〈下〉 (新潮文庫)
トマス ハリス Thomas Harris 高見 浩
4102167048