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●最後の戦犯 

NHKスペシャル 2008-12-7放送。
原作:大岡昇平「ながい旅」
脚本:鄭義信
出演:ARATA、倍賞美津子、石橋凌、中尾彬ほか


映画「明日への遺言」を見たその当日のNHKスペシャルで、奇しくも同様にBC級戦犯を扱ったドラマ「最後の戦犯」というのをやっていたので、これも合わせて見る事にした。

油山事件という史実を元にしたドラマで、大岡昇平がこの事件を元にして著作した「ながい旅」という小説を原作としたものである。

終戦間近の8月10日、福岡県の油山で見習士官として配属されたばかりの吉村修(ARATA)は上官の命令によって捕虜の斬殺を余儀なくされる。ところが5日後に終戦となり、戦犯としての追求を恐れた上官加藤(石橋凌)は逃亡を命じる。

逃亡に矛盾を感じながらも吉村は名前を変えて多治見の陶器工場で職人として働く。一方、故郷では「戦犯の家族」として吉村の家族たちが迫害を受け、警察による拷問を受けていた。その拷問がキッカケとなり、体の弱かった姉(原沙知絵)は無残にも死んでしまう。
隠遁生活を続けていた吉村は、自らの責に耐えかねて拳銃自殺を試みるが弾が出ず失敗に終わる。

やがて隠れていた事が発覚し、吉村は逮捕され裁判を受けることになる。奇しくも彼の審判が横浜裁判における最後の審判となったのであった。

法廷で、何とか言い逃れをしようとする上官に呆れた吉村は、処刑を行うに当たって自ら志願したと嘘をつく。それは自分の犯した罪に対する自己批判の気持ちの表れであった。
個人の戦争責任とは何か、という事をこのドラマは追求する。「明日への遺言」では、優秀な上官が全責任を負い、結果的に部下は罪には問われたものの極刑は免れた。
しかし、この事件では極刑判決が出たものののちに減刑され、獄中死した者を除いて全員が最終的には出獄している。

ドラマでは徹底的にダメ上官ばかりが描かれているが、中には岡田資のように責任は全て自分にあると主張した司令官も居たようである。ドラマ的にはそのような表現をしてしまうと責任者のダメっぷりが引き立たないので割愛されたようだが、そのような上官が居たという事だけでもここで言及しておくべきであろう。

家族が吉村の居所を知っていたかどうかについて明確化されてはいないのだが、実際は知らなかったらしい。にも関わらず警察から拷問を受け、姉は殺されたのだ。そこの部分はもっとはっきり描くべきであった。また、逮捕されたキッカケも、居所を知っていた元上官からの告白であり、それは家族に対するあまにりも酷い取調べに思い余った結果の末の判断だったという部分もきっちりと描かれるべきであった。

役者について少し語っておこう。
主役の吉村を演じたARATAは、「実録連合赤軍」で坂口弘役を演じていていたが、今私が大変気に入っている役者のひとりである。ちょっと雰囲気が故古尾谷雅人に似てるんだなあ。このまま良い役者として成長して欲しい。姉役の原沙知絵は「ちりとてちん」のイメージが抜けず、何だか猿芝居を見ているような気がしてしまった。同じNHKなんだから配役をもうちょっと考えろよ。妹役のテロップを見てびっくり。前田亜季とは。随分大人になったねえ。
その他の配役としては、陶器工場の同僚役でうじきつよしが出ていたのが懐かしかったくらいか。最近全然見てないからね。

このドラマは鄭義信という在日韓国朝鮮系の脚本家が書いており、それゆえ逮捕された巣鴨プリズンでは韓国朝鮮系の戦争犯罪人が同室となり、彼の苦悩についても描かれ、それがキッカケとなって吉村が自らの責任を負うべく「自らの意思で斬殺した」と証言するようになっているが、正直言ってこの話に韓国朝鮮系の戦争犯罪人の話を持ってくるべきではないと思った。
それはそれとして、全く別の問題として描かないと主題がぶれてしまうだけである。
私は在日韓国朝鮮系の人々に対して特別な感情を持っていないが、何もこの映画にそういう要素を付け加えなくてもいいのに。それは主題を大きく歪める要素にしかならない。悪く言えば、そのためだけにこのドラマを作ったのではないかと勘ぐりたくなってしまうくらいである。敢えて逆効果であったと言い切っておこう。
それ以上に、こういうドラマを日本人脚本家が書けないという点について、より多くの批判を加えるべきであろうか。

このドラマを見た人には、是非余韻のあるうちに「明日への遺言」も見て頂きたい。日本にはこんなダメ上官ばかりではないという事も知っておいて欲しいので。
「私は貝になりたい」は見なくていいです。